和漢医薬学の基礎と臨床の橋渡しを推進する

和漢医薬学会

第38回 和漢医薬学会学術大会「市民公開講座」

2021年9月24日 カテゴリー: 市民公開講座

開催日:2021年9月4日 (土)〜9月12日(日)
講師佐々木 陽平 [金沢大学医薬保健研究域薬学系]

生薬の作り方 〜漢方薬の原料生薬はどのように作られるのでしょうか〜

講師 佐々木 陽平
[金沢大学医薬保健研究域薬学系]
要旨

漢方薬は,複数の生薬を配合したものを煎じた液,又はそれをエキス化したものです。皆さんはこれら原料生薬がどのように作られているかご存知でしょうか。収穫物を単に乾燥しただけではありません。生薬の薬効が最も発揮されるような加工法が開発されているのです。生薬の産地とは,原植物の栽培法と生薬への加工法が継承されているのです。現在,日本で使用される生薬の9割は海外からの輸入品です。つまり日本で生薬の生産技術があるのは1割ということになります。

漢方薬の配合生薬のレシピの多くは古代中国から伝来したものですから,原産地のほとんどは中国です。しかし江戸時代にかけて,私たちの先人は国産生薬の生産に取り組み,野生種由来の黄連や柴胡,栽培品由来の人参や芍薬の開発に成功しました。しかしこのような生薬も日本産の比率は年々減少傾向あります。今回は当帰を例に作り方の紹介をしたいと思います。

当帰はセリ科トウキ Angelica acutilobaの根に由来する生薬で,当帰芍薬散など重要な漢方処方に配合されています。トウキの収穫物は「ハサ掛け」と呼ばれる乾燥工程,および「湯もみ」という温湯に浸してのもみ洗い工程を経て生薬に調製されます。A. acutiloba は日本特産種であり,この加工方法は日本独自のものです。私たちの先人は大陸から導入された本草書の情報をもとに,山野から相当種を探し出し栽培化を試みました。選抜を繰り返した結果,日本の気候に適した生産方法が編み出されました。この生産技術の確立の過程は,当時の漢方の発展と併行しており,日本人の体質に適した当帰となりました。

中国産当帰の原植物はAngelica sinensisであり日本に自生していません。当時の日本では,麻黄のように中国産当帰を輸入し続けるという選択肢がありながらも日本で代用品を開発する選択をしました。トウキの栽培化はかなり以前より取り組まれ,準備が整っていたのかも知れません。現在,日本ではA. acutilobaの明らかな野生品が確認されておらず,当時,相当な苦労で選抜してきたことが想像できます。本講座を通じて,皆さんと国産生薬の重要性を共有することができたらと思います。
補足資料