和漢医薬学の基礎と臨床の橋渡しを推進する

和漢医薬学会

第32回 和漢医薬学会学術大会「市民公開講座」

2015年10月28日 Categories: 市民公開講座

pdf開催日:2015年8月22日 (土)
場所:富山国際会議場 (201・202) 

オーガナイザー
大黒 徹 [富山大学医学薬学研究部医学系ウイルス学]

講師
加藤 敦 [富山大学附属病院薬剤部]
白木 公康 [富山大学大学院医学薬学研究部 医学系ウイルス学]

和漢薬の魅力・再発見 〜薬剤師から見た和漢薬の奥深さ〜

講師 加藤 敦加藤 敦
[富山大学附属病院薬剤部]
要旨 和漢薬は、1つ1つの生薬・成分が合わさって効果を示すお薬です。皆さん、オーケストラを想像してみて下さい。主旋律を弾くバイオリンだけではあの様な重厚な音色を作り出すことはできません。ビオラ、チェロ、コントラバスといった弦楽器が主旋を行くバイオリンの音色を下支えし、音に厚みを与えています。さらに木管楽器や金管楽器、個性的なパーカッションなど、実に様々な楽器が自分の個性を活かしつつ役割を果たし、1つの音色を作っていきます。和漢薬もオーケストラと同じです。例えば「葛根湯」という方剤は、葛根、麻黄、桂皮、芍薬、甘草、大棗、生姜の7つの生薬から構成されています。葛根湯は、自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のある方に対して使われますが、主薬である「葛根」が筋肉を潤しながら項背部の凝りや痛みを緩解する役目を担い、麻黄と桂皮が組み合わさることにより発汗が促され、逆に芍薬は、麻黄と桂皮による発汗作用にブレーキをかけ発汗が適正に保たれるよう働きます。甘草、大棗、生姜といったメンバーは、病気に対する抵抗力を高め、自然治癒力を増強するといった守備的な役割を担っています。この様に古典を読むと実は方剤における各生薬の役割がちゃんと記載されています。さらに面白いことに個々の生薬は、組み合わせを変えることにより、全く異なる効果を示すようになります。こうした先人達の経験や知恵を紐解いていくと和漢薬が実に奥深く、また非常に上手く構成されていることが解ってきます。
私は、和漢診療のすばらしさは病人の愁訴に寄り添い、患者さんのその時の状態(証)に応じたお薬が処方される点にあると思います。特に私はこの「証」に基づいた治療の大切さを伝えていけたらと考えています。みなさん、風邪をひいたから「葛根湯」を飲もう、なんて安易に考えていませんか?「風邪だから葛根湯」「少しおなか周りが気になるから防風通聖散」という様な「病名に基づく診断」は、検査データを重視し、治療の標準化を行おうとする西洋医学(現代医学)的な発想であり、個人の違いを重視する漢方医学の良さを半減させてしまっている気がします。同じ風邪でも、熱が出て汗をかいている患者さんもいれば、悪寒がして布団から出られない患者さんもいますよね。和漢薬は、こうした患者一人一人の状態を漢方医の先生が五感を使いながら病人を理解し、「証」を決めています。漢方医の先生に「証」を見立ててもらうことは、自分自身の体の変化やゆがみと向き合える絶好の機会になるのではないでしょうか。
補足資料

漢方薬と抗インフルエンザ薬 (アビガン) の開発

講師 白木 公康
[富山大学大学院医学薬学研究部 医学系ウイルス学]
要旨 「かぜには葛根湯」といわれますが、葛根湯がどのように作用しているかをお話しします。また、富山発で、世界への貢献が期待され、「エボラ」に有効とされ話題となった「アビガンの開発」について紹介します。
わが国では葛根湯は広く感冒などに使用されているが、中国では銀翹散が使用されている。インフルエンザ感染マウスモデルで、葛根湯中の「シンナミル化合物がサイトカイン産生を調節して、解熱作用と抗ウイルス作用を示す」という作用機序を明らかにしました。葛根湯は、主として感冒に使用され、金額的には医療用漢方薬の中では12番で、薬局販売では2番です。このように、日本で良く使用される葛根湯は、かぜの初期にウイルスの増殖を抑え、局所での感染を軽くします。これに伴って、誘導されるサイトカイン類を調整して、その効果(かぜの軽症化)を発揮します。そして、鼻かぜでも全身症状を伴いますが、葛根湯はこの全身反応を軽くします。このように、葛根湯は感染局所でウイルスを抑え、全身反応を軽くして効果を示します。
中国の漢方医は銀翹散をかぜに使用しますが、「葛根湯は、家族や職場で誰かが風邪をひいたら、その周囲の人は予防的に服薬する」という使い方をするそうです。これは葛根湯の作用機序からは、風邪にかかりそうになったら、局所での感染軽症化と全身反応の軽症化できるように備えるという理想的な使用方法と思います。感染しなければ、サイトカイン類の誘導はないので、葛根湯は作用しないことになります。一方、葛根湯は肩こりにも使用されており、葛根湯の服用は問題ないと考えられ、予防的使用は理想的と考えられます。
昨年、富山化学工業のアビガン(開発番号T-705、一般名Favipiravir、商品名Avigan)とエボラ出血熱との関係で話題になりました。富山大学でインフルエンザ感染動物での有効性を確認し、その開発に関わったので、T-705の特徴について紹介する。富山化学は化合物合成技術に優れており、化合物のスクリーニングの中で、インフルエンザウイルスに有効なT-705が見出された。T-705は、細胞内で3リン酸化され、インフルエンザウイルスのRNAに取り込まれた時点で、RNA伸長を阻害する伸長阻止薬(Chain terminator)として、ウイルスRNA合成を阻害する。そのため、タミフル等のノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)と異なり、細胞内でRNA合成を阻害させないため、病態に関わるウイルス負荷(viral load)を下げることができる。このことは、図に示すように、重症感染では、NAIが有効ではない条件下でも有効性が発揮できるという特徴を持つ。そのため、致死率の高い高病原性鳥インフルエンザ感染症に対する有効性が期待される薬剤となっている。
昨年初めに、英国とドイツのグループが、T-705がエボラウイルス感染マウスで有効性を発表したことから、さらに注目されることとなった。インフルエンザでは、マウスで効いていることから、エボラウイルス感染症に対する有効性が期待された。2月4日のニューヨークタイムズでは、ウイルス量の少ない感染患者の死亡率を30%から15%に低下させたと報道された。
補足資料